2022/10/29 07:00



Labの挑戦をひも解く。

Tsukuba Place Lab(以下Lab)での「繋がり」から生まれた商品を集めたオープンラボ。その商品は一朝一夕で生まれたものではありません。コラボ相手との挑戦の歴史が詰まっています。どのように繋がりが生まれたのか?Labはどのように挑戦を応援してきたのか?そうして生まれた商品のこだわりとは?「ラボヒストリー」では、Labという場で挑戦してきた方へインタビューすることで、商品に込められた挑戦のストーリーをお伝えします!

株式会社ideal fashionが香りをつくり、unitXがパッケージデザインを担当した『“つくば福来る風の香り”アロマスティックディフューザー』は2022年3月に誕生し、11月1日にリニューアル発売します。今回から2回にわたり、香りとデザインの両面から“つくば福来る風の香り”に込められた挑戦をお届けします。

今回の話し手は、株式会社ideal fashionの江本州陽さん。起業する場所を探していた江本さんは、外から来た人を受け入れるつくばの風土を感じ、移住を決めたといいます。そこから始まった「つくばらしい、Labらしい」香りをつくる試み。“つくば福来る風の香り”アロマスティックディフューザーの香りはどのようにつくられたのか?江本さんとLab代表堀下との対談からひも解きました。

移住者から見るつくばの魅力
ー江本さんはつくばに移住して来ていますが、つくばに決めたのはなぜだったのでしょうか?

江本さん「日本中のスタートアップ施設やインキュベーション施設を回って起業する場所を探したのですが、その中で一番よかったのがつくばでした。つくばスタートアップパーク(以下スタパ)の人たちがいろいろ教えてくれたり、毎週水曜日のスタパイベントに登壇させていただいたりしたことが決め手になりましたね。外から来た人にも優しかったので馴染みやすかったです。」


堀下「僕もつくばで起業した一番の理由は、風通しがいい街だと感じたからなんですよね。研究学園都市は1960年代に国が計画してつくったので、今住んでいる人たちはまだ2世代目、3世代目くらい。さらに、つくば市の約25万人の人口に対して約2万人の筑波大学関係者がいて、2万人以上の研究者がいるとなると、人口の2割ほどがそもそも外から来た人たちですよね。みんなそれほど外から来る人に対してきつくないんですよ。すると『外から来た若者がつくばでなんか変なことやりやがって』と言う人は少ないですよね。応援するかどうかは別としても邪魔をしないことは大事なことだなと思っていて。学生が起業しやすいと思ったし、スタートアップも起こしやすいんです。」 江本さん「スケールするときも東京が近いから仕事しやすいと思いました。都会と地方都市の両方のいいところがあって、かつ起業支援をしているところは他にないんじゃないでしょうか。」 堀下「その感覚わかります。僕は熊本出身なのですが基本的にすべて熊本で十分。ましてや福岡に行けば一通りそろうし、さらにスタートアップ関連支援もやっている。でも東京へ行くハードルが低い、というのは地方都市としては大きなアドバンテージなんです。熊本はつくばに比べて人口も多いし都会で、別の魅力があるけれど、つくばは東京に近いというだけでチャンスの数が多い。これは熊本で生まれ、つくばに12年ほど住んだ僕が思う、つくばの利点の1つですね。」

Labで感じた「心を軽くしてくれる自由さ」
ーLabの印象は?

江本さん「スタパは『何かやりたい』の『何か』が決まっていて、走り出すフェーズにいる人が多い場所だと感じました。一方、0から1を産む場所はどこだろう、と考えたらLabだと思いますね。挑戦したいことがあるけれど、どうしたらいいか分からないという人が来て、熱意を持って挑戦の種を生み出そうとしている場所だと思います。こういう場所は日本中探しても全然なくて。1を10にする、とか10を100にするという場所が多い。Labはいろんな人が集まって『こんなことをやりたいんだ』っていう話ができる。オープンな場でいつでも入れるところがすごく気に入って、気付いたら通っていました(笑)」 堀下「週4〜5日は来ていましたよね?」 江本さん「そうですね(笑)Labではリラックスできました。Labに来ていろいろな人と会ってから『こういう風に生きていいんだ』と気が楽になったんです。」 堀下「江本さんが来ていた平日の昼間の時間帯は、起業家や転職活動中だったり、早期退職した人だったりと、時間やお金を自由に使える人が来ることが多いんです。そして、頑張っている若者を応援したいと心から思っている人たち。学生からしたらロールモデル的にも面白いし、こういう自由な人がいるということを知るだけで、全然違う世界が広がりますよね。」 江本さん「自由なマインドを持っている人がいるから挑戦のハードルが下がりますよね。自分がやりたいと思っていることって、実は結構挑戦できるんだと思える。一歩踏み出すために心を軽くしてくれる人たちが集まる場所なんだなと本当に思いました。」


堀下「学生や起業家がいる一方、最近は子どもがいるお母さん向けの絵本について話す会『季節の絵本読み聞かせとおしゃべりラボ』もLabでやっていて、乳幼児連れのお母さん、お父さんが7、8組定期的にLabに来ているんですよね。多様な人たちが来ることで『何でもあり』を体現したいという気持ちは強くて、江本さんのような人が来てくれるのは本当にうれしいですね。」
江本さん「確かに、このセクターのこのレイヤーの人しかいない、といったようにコミュニティは同じ属性の人で固まりがち。でもLabには老若男女、挑戦する人、挑戦を応援する人が集まる。平均値と中央値が取れない場所だと思いますね。」

つくばを体現する香りに挑戦
ー“つくば福来る風の香り”をつくるに至った経緯は?

堀下「ideal fashionはもともと『ディフューザー FURUSATO / 徳島心 すだちの香り』をつくっていて、それを江本さんがLabに持って来てくれたんです。」
江本さん「どうしてか、持って来ましたね。」


堀下「地域をテーマにディフューザーをつくれることを知り『つくばの香りもつくりたいですね』という話になりました。そして徳島がすだちなら、つくばは福来みかんかな、と。」 もともとLabは柑橘系の香りをディフューザーに使っていた。Labが23時まで営業していた2020年までは、昼間は挑戦をイメージしたシトラスなどの香り、夜はラベンダーなどのリラックスできる香りを使っていたという。
堀下「Labはフレッシュでエネルギッシュな場所で、大きな窓から太陽が差し込んで芝に入るのがその象徴だと思います。何か新しいことをやりたい、より前に行きたい人に寄り添いたい気持ちがあるので、柑橘系の香りを香らせていました。香りは記憶とセットになりやすいと思っていて、この香りを嗅いだらLabを思い出してくれたら嬉しいなと思っていました。」 福来みかんは、つくばの名産品でありながら、Labのイメージにもぴったりだった。 堀下「けれども、柑橘系の香りというのはよくあるのでオリジナリティに欠けるなと、芝の香りを足そうと思いました。意外と知られていないけれど、つくばは芝の生産量が日本一なんですよ。Labでもリラックスできるよう芝を敷いていたので、Labとつくばを重ねて、Labからつくばの香りを出そうと。それで、リラックスできるけどエネルギッシュな、福来みかんと芝の香りでお願いします、とだけオーダーしました。そもそも芝の香りって存在するんですかね?(笑)」 江本さん「ないですよ(笑)調香師は香りをつくるために芝を買って嗅いでいましたから。」 堀下「1回目のサンプルの香りを嗅がせてもらって、好きな香りだったけれどみかんの印象が強かったんですね。『もっと青々しい芝の香りを強めてほしい』という、フレグランスとしては微妙なオーダーをした記憶があります(笑)」 江本さん「たくさん試行錯誤しました。芝の香りを強くしすぎると、青臭くなってしまう。ポジティブなイメージで芝を香らせるにはどうしたらいいかと悪戦苦闘しました。かといってみかんの香りを強くすれば、芝の印象がなくなってしまう。みかんと芝の相容れない香りのバランスが難しかったです。でも、うちの強みは早くサンプルを出して、クライアントとの認識のずれをなくすことなんです。スピードで勝負しています。僕たちが長い時間考えて作品をつくったところで、必ずずれは生じる。だったら1、2週間ぐらいでパッとサンプルをつくって、ずれをなくしていってイメージ通りの香りをつくるほうがいいですよね。それはすごく心がけました。」 堀下「本当に早かった。やりやすかったです。」 江本さん「僕は基本的に納期管理と目標管理しかしていなくて、会議してコンセプトを決めたあとはもう調香師にお任せです。だから、認識のずれがないんですよ。僕を介してお客様と調香師がやりとりするか、お客様と調香師が直接やりとりするかのどちらかのフローです。人を挟めば挟むほど伝言ゲームのように認識がずれていく。うちは極端にお客様との距離が近いため認識のずれが少ないし、ずれたところですぐ改善して新しいものがつくれる。」 香りは、ディフューザーを発売したあともすでに3回リニューアルしている。 江本さん「芝とみかんの香りを混ぜて、着色もそこに加えるなんてことをやった香料会社は日本でもうちくらいですよ。そうしたら普段は起こらないことがたくさん起こったんです。例えば、成分が沈殿するとか。沈殿の理由を追求して、この条件で起きるんだ、というのを発見しました。でもこの現象は普通につくっていたら起こらないから、いい意味でいろいろなことに挑戦させていただきました。」 ー“つくば福来る風の香り”という名前は誰がつけたんですか?
堀下「僕です。つくばは風通しがよく、人が対流する。それはLabも同じです。だから風のイメージは意識していました。それから、福来みかんは「福が来る」みかんですから「福」は押し出したかった。つくばを代表するものにしたかったんですよね。加えて、パッケージデザインをお願いしていたunitXが提案してくれたデザインも、みかんと芝、流れるイメージを意識してくれていた。それで最終的に“つくば福来る風の香り”にしました。」



堀下「すごいのは、販売を開始したあとデザイナーから『風やつくばらしさをもっと表現できるはずだから、デザインをブラッシュアップしたい』という申し出があったことです。挑戦を応援するという文脈で、Labとしてとてもうれしかったですね。」 江本さん「普通そんなこと起きませんよね!」 堀下「江本さん、unitX、Labが一緒になってやってきたことが、しっかりと表に出ていくことはうれしいと思いましたね。」

ideal fashionの挑戦が生んだ“つくば福来る風の香り”。そのボトルの中には、江本さんが感じたつくばやLabの魅力が詰め込まれています。そして、この香りは今まで以上にLabの挑戦を引き出すことでしょう。次回はパッケージデザインを担当したunitXから、代表の岡村未来さん、デザイナー今井愛さんにお話を伺います。

株式会社しびっくぱわー 青木優美

Tsukuba Place Lab

“みんなでつくる、みんなの場“というコンセプトのもと、2016年の着想から、クラウドファンディング、DIY、4日間に渡るオープニングイベント…とたくさんの方を巻き込み巻き込まれながら創業し、運営を続けてきました。創業から5年半で延べ17,000人以上もの方がご利用くださっています。「異なる価値観が出会う、アイデアを共有できる場。人と人とを繋ぎ、やりたいことを実現していくための場」を提供するため、年間350本以上、累計1,700本以上のイベントを企画運営し、エネルギー溢れる場を、まさに“みんなでつくって“育んでいます。 Labという場を通じて、より多くの人が挑戦できる社会を実現したい。そして挑戦を本気で応援し合える文化を醸成したいと考えています。Labはこれからもコラボレーションと実験を繰り返し、「あらゆる挑戦を応援する場」であり続けます。