2022/09/06 12:00

Labの挑戦をひも解く。


Tsukuba Place Lab(以下Lab)での「繋がり」から生まれた商品を集めたオープンラボ。その商品は一朝一夕で生まれたものではありません。コラボ相手との挑戦の歴史が詰まっています。どのように繋がりが生まれたのか?Labはどのように挑戦を応援してきたのか?そうして生まれた商品のこだわりとは?「ラボヒストリー」では、Labという場で挑戦してきた方へインタビューすることで、商品に込められた挑戦のストーリーをお伝えします!


#1の話し手は美術作家でありLabスタッフでもあるやぎちゃん。「絵画教室の先生」としてLabに足を踏み入れた彼女ですが、今ではLabスタッフとして、Labに欠かせない存在になっています。やぎちゃんはなぜLabと出会ったのか、作品をどのように生み出すのか、そして絵画教室を通じて伝えたい想いとは。やぎちゃんの挑戦をひも解きます。



Labと絵画教室と本棚との数奇な偶然


ーLabに来たきっかけは?


「2021年9月からLabスタッフをやっています。その直前に、個人の活動として子ども絵画教室を始めたのですが、コロナ禍に入って大学のフリースペースなどが使えなくなってしまって。オープンな場かつ、声を出してもいい場所を探して見つけたのがLabでした。『コワーキングスペース』や『フリースペース』というキーワードで検索していたら、しずかな作業スペースばかりで。そしたらいきなり、イベントをたくさんやっていて騒がしそうな写真がいっぱいある場所が出てくるじゃないですか(笑)」



コミュニケーションが第一の絵画教室にしたかったので、どうしても声は出るし...それを大事にできるような空間を探していたら、Labに辿り着きました。私の絵画教室が溶け込めそうだったんですよ。」 確かに、Labはいわゆる『コワーキングスペース』ではない。静かに作業をする場所ではなく、人と人とが出会う場所。まさに『コミュニケーション』を大切にしている場だ。 「そのあと、改装中だと知らずLabに突撃してしまい、その節は堀下さんにご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。DIYが終わっていると思ったら、バリバリ改装中で(笑)それを知らなくて意気揚々とLabに行っちゃいました。」 当時、Labはオープン以来のリニューアル中。よりコミュニケーションが生まれる場にするために、キッチンと本棚の制作中だった。床は張り替えられ、カウンターも完成していたとはいえ、まだ荷物は片付いていない状態だった。



「そのときお客さんとすでに待ち合わせしちゃっていて。『あと5分したらお客さんが来ちゃうんです...。』って言ったら卓球台を出してくれて、急遽Labを使わせてくださいました。」


テーブル代わりに使っていた卓球台は、今はすでに貰われていった。


ー本棚の左半分はやぎちゃんが主体となって作ったと聞きましたが?


「そうなんです。Labに初めて来たときは、右の本棚ができていて、半分は空いていました。『ちなみにここ本棚作らないんですか?』って堀下さんに聞いたら『やっぱそう思うよね』って。2日後には一緒に木材を買いに行っていました(笑)左半分は木材を選ぶ段階でなるべくまっすぐなものを選んだので、かなりゆがみが少ないはずです。額やパネルを手作りすることが多いので、木にうるさいんですよ、日本画専攻は(笑)」



ーそのあとLabスタッフになるまでの経緯は?


「自然な流れだったと思います。DIYが終わって『これからもここで絵画教室やっていいですか?』と堀下さんに聞いたら『いいよ』と言ってくださいました。しかも、絵画教室を開催するにあたって必要な『場』を物理的に貸してくださっただけではなく、私自身を『Lab(スタッフ)に入れる』ことによって、常に開かれた場であり、思いもよらない偶然から新しい出会いとアイデアが生まれるLabという場を、個人の活動をする上でより強く活かせるよう取り計らってくれました(と勝手に思っています(笑))。」


Lab代表の堀下は「やぎは絶対なんかおもしろいことするやつだ、と確信したから、なんとか繋ぎ止めようと思った」と後に語る。


めちゃくちゃラッキーですよね。ただのお客さんとしてLabに来たのに活動を応援してもらえて、物理面とノウハウ両方のサポートもしていただけて...!」


その後、やぎちゃんは毎週水曜日17:00から21:00に、“集中できる夜に自由に絵を描こう”がコンセプトのイベント『夜のアトリエ』を開催。絵の指導をしつつ、自分でも制作を進めている。夜のアトリエの最新情報はpeatixでチェック!


『長く残る』日本画を目指して


ーオープンラボでまっさきに売れたのがやぎちゃんの日本画でしたが?


「一番最初に売れたのは偶然だと思います(笑)でもうれしかったですね。買ってくださった方がオープンラボへメッセージを送ってくださったんです。私とLabのコラボストーリーと絵のコンセプトが印象的で、そこが決め手、と言ってくださいました。学生時代は絵を展示するときに毎回キャプションを作っていたんですけど、キャプションについて感想をいただくことってほぼないんですよ。だから、自分の思考や思想に対してリアクションがあったのが新鮮でした。」



○コンセプト

岩絵具を『流す』技法を使い偶然立ち現れた模様を背景に生かした、具象と抽象が入り混じった作品。本格的な日本画材を使用しつつ、飾る場所を選ばない控えめなサイズ感と色調です。

再現性がないため一点物となります。

木板に和紙を貼った原画です。


ー作品のコンセプトは最初に決めてから描く?


「2パターンありますね。美しいものを見たときに『これ描きたい!』と思って、そのあと自分の中でそのモチーフの持つ意味とかを深掘りしていくこともあれば、小説や最近知った昔話の中に深掘りしがいがあるアイデアを見つけて、モチーフとしてイメージに合いそうな動物とかを調べて使うことも。モチーフを見て描く写実表現があった上でアレンジがある。そのアレンジの部分が芸術、自己表現というか(笑)」


ーモチーフはどう選んでる?


「得意なモチーフは自然物。植物、動物など、形が変わっていくもの。自然物は何を描いても正解、とまではいかないけど、例えば葉っぱが一枚増えたくらいでは違和感はない。アレンジのしようがある。そういうものは装飾性が高いので日本画のモチーフとして丁度いいんです。あとは動きがあるものオープンラボで売れた絵もそうなのですが、静止画でも動いて見えるような、柔らかいヒレを持つ魚をモチーフにすることが多いです。モチーフに限らず、画面全体も流れを意識して描いてる気がします。」


ー「日本画」ってどう描くの?


「日本画は岩絵具という日本古来の絵の具を使うのが最大の特徴です。また、線を重んじる文化が強く、明暗による立体感よりも線から立ち現れる形を重視します。何回も下絵を重ねて制作するので、形や線に対する向き合い方が一番シビアな領域だと思っています。」


ー下絵を何回も重ねる、というのは?


「まず小さいイメージ画や写生(デッサン)を描きます。これを『小下図』と言います。次に、本番と同じサイズの『本下図』を描きます。それを本画にトレースして線だけ抽出するんですね。イラストの線画みたいな状態にして、これで下書きができました。その下書きを次は墨でなぞります。同じ作業を何回も繰り返してやるのですごく根気がいります。色を塗り重ねて修正するのも難しいので、日本画はあえてたくさんの工程を踏むことで、失敗することなく、確実に完成に向かって進められるように計画的に描きます。」


ーコンセプトに書いてある『流す』技法というのは?


絵を傾けて絵の具をざーっと流すと模様が立ち現れる。岩絵具とは鉱石を砕いたものなのですが、粒の大きさによって色の濃さが変わるんですね。粒が細かければ細かいほど白っぽくなって、荒ければ荒いほど濃くなる。どの粒度が一番綺麗に模様が出るかを大学時代研究しました。粒子の間が模様になるのですが、粒子が細かすぎると隙間が埋まっちゃって、粒子が大きすぎるとごたごたして見えてしまいます。」



ー流すという技法は一般的なもの?


「技法としてあるにはある...けど、模様を残す『描写』としての使い方はあんまり見ません。一般的に『流す』っていうと、絵の具を全部洗い流すんですね。色が濁っちゃって修正したいときに使う方法です。模様を立ち現すというのは、他にやっている人はいるだろうけど、正式に習う技法ではないかもしれません。」


ー今売り出し中の絵の推しポイントは?




「可愛いマチエール(材質感)です!キラキラしてるんですよ。背景の下地は3回塗り重ねてるので、複雑な色になっていると思います。下地はムラになりやすくて、3回塗ってやっと均一に塗れるなんてことはざらにあります。これは1回黒を塗ってから群青かな?



深海のイメージで背景を暗くしました。深海で雪のようにプランクトンの死骸が降ってくる現象があって『深海×夜空』みたいなイメージで描きました。モチーフに対して自分の中のイメージを抽象的に表しています。モチーフの見た目が好きというだけで描けはしなくて。例えば『ヘビは不吉』とかモチーフがそれぞれ持つイメージを入れたいと思っていて、意識的にそういう情報は仕入れるようにしています。」



確かに、絵画教室を見学させてもらった際に描いていたイグアナも、手やたてがみの特徴、機能がメモされていた。ただモチーフを描くだけでなく、モチーフをよく観察して調べることで、イメージを膨らませているのだと感じた。


ー絵に対するこだわりは?


「売れる売れないよりも、記憶に残るかどうか。長く残る絵って耐えうるんですよ、長く見られることに。売れなくてもいいので、この世に残るようなクオリティであるか、そういう見られ方を意識してます。ひとつのクオリティの高いものとして、お金云々よりも残って欲しい

大学で卒業のときに作品を破棄せざるを得ない人もいるんですね。絵のサイズが大きいので、持って帰れなかったり、保管する場所が無かったり。こんなに頑張って作ったのに、捨てられる作品があるのが、もはや怖いんですよ。それがすごい悲しいなあと思っていて...。だから自分が描く作品はサイズにもこだわっていて、オープンラボで販売している作品が小さいのはそういう理由です。」


ー次にオープンラボに出品する新作は、何をモチーフで描いてる?


「新作は魚シリーズ。背景を花にしようと思うので、花言葉と関連づけようかなと。」




得意を伸ばして日本画の道へ


ー絵は小さいころから習っていた?

「小学生のころ、お姫様の絵を想像で描いて、それを家族に見せたんですよね。それを見て親が『こいつは才能あるぞ』と思ったらしく(笑)それで子ども向けの絵画教室に通い始めました。その絵画教室では、来たら1枚絵を仕上げていってね、というスタイルで、描き終わったら先生に見せてアドバイスをもらって完成。ある日、木を描いたときに『こういう風に影を入れたら木に見えるよ』と、先生が実際描いて見せてくれたんですよ。その絵を見た瞬間に『え、木じゃん』って思って(笑)方程式を初めて覚えたときみたいに一気に理解度が上がって、それが物の構造を理屈で捉えるという初めての経験だったのでよく覚えてます。」


ーそこからどう日本画の道へ?

「中学に上がるタイミングでそれまで通っていた絵画教室は辞めたのですが、中2の後半くらいから受験用の画塾に通い、芸術科のある高校に進みました。1年生のときに一通り全専攻の課題をやります。デザイン、油絵、日本画、彫刻。2年生になってから主専攻を選ぶんですね。実用性重視のデザイン領域は苦手でした。逆にコンセプトとモチーフを以って制作するオーソドックスなファイン系の日本画は得意だったので、日本画を選びました。得意を伸ばすというか。」


ー大学に入ってからは?

「ちょっとスランプになってたときがありました。低学年は基礎を固めるのでゴリゴリのアカデミックな課題。でも課題の評価の仕方が先生の好みだったりして。せっかく大学という個性を伸ばせる場所なのに、作品を並べて見ての相対評価で、あまり個人個人を見てもらえない印象だったので、意味があるのかなと思ってしまって。『また相対評価なんでしょ』と卑屈になってしまっていました。それでも課題は毎週出るので、そっちに労力を割かれちゃって、課題と切り分けて個人で絵を描くという切り替えができませんでした。惰性で描いてたというか、作業みたいになってしまっている時期はありましたね。でも、高学年になると自由課題が多いんですよ。サイズだけ決められて、あとは何日までに描いてね、みたいな感じ。『海月の日本画』は大学2年の作品で、動物画の課題で描いたのですが、結構アレンジしちゃいました。課題というよりは作品感があると思います(笑)」



『見守る』コミュニケーションの絵画教室


ーなぜ絵画教室を始めたの?

「卒業後も絵に携わっていきたいなとは思っていて。でも、自分のために描くことがあんまりできませんでした。描きたいという衝動だけで絵は描けるのですが、私はムラしかないので(笑)プロってムラがあっちゃいけないので、プロとして描き続けるのは向いていないと思っていました。そこで、技術を伝承するというか、人に教えながら自分も学び続けるほうが長く続きそうだな、と思いました。あとは、もったいない精神が強くて。高校、大学とずっと絵をやっていて、なのに絵を生かさない職に就くっていうのは、全部が無駄になる気がしてました。」


ー絵画教室ではどんな指導を?

「どう指導して欲しいとか能力を発揮する環境は、その子によって違うと思うので、個人の希望に沿った指導をしています。特に要望がない場合は自分が通っていた絵画教室を参考にしていて、逐一指導をするというよりは、先生は先生で自分の絵を描いていて、必要なときだけアドバイスに入るという方法でやっています。今まで絵画教室に通ったことがない子たちが初めて「絵を習う」という経験を通して、自己表現の楽しさを学んでいって欲しいです。作品を完成させることはそんなに重要じゃなくて、人とコミュニケーションを取りながら一緒に描く、その過程での学びと発見に意味があると思ってます。」



生徒さんをよく見て話すやぎちゃんは、その柔らかい雰囲気で短期間で生徒さんとの信頼関係を築いている、と絵画教室を見学したときに思った。絵画教室に限らず、やぎちゃんは話すペースを自然に相手に合わせていて、安心感のある接し方だ、と側から見ていて思う。


ーやぎちゃんの派手な髪色は何かポリシーが?



「派手なのはあんまり自覚してないんですよね。100%自分のためにやってるので。趣味かな?自分の機嫌の取り方のひとつなんですよ。色が落ちてきて地味になってくると、なんか自信持てなくて。でも、染めるとめっちゃ元気になって。あ、自分はそういう生き物なんだ、これが自然な姿なんだって思います(笑)」



やぎちゃんの挑戦は、小さいころからの美術との向き合い方から始まっていました。少しずつ形作られてきた挑戦の種が、Labに訪れたことで一気に開花したように思います。やぎちゃんとLabとのストーリーは2021年9月から始まったばかりですが、今後もLabでの新たな挑戦を生み出していくことでしょう。

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株式会社しびっくぱわー 青木優美


Tsukuba Place Lab

“みんなでつくる、みんなの場“というコンセプトのもと、2016年の着想から、クラウドファンディング、DIY、4日間に渡るオープニングイベント…とたくさんの方を巻き込み巻き込まれながら創業し、運営を続けてきました。創業から5年半で延べ17,000人以上もの方がご利用くださっています。「異なる価値観が出会う、アイデアを共有できる場。人と人とを繋ぎ、やりたいことを実現していくための場」を提供するため、年間350本以上、累計1,700本以上のイベントを企画運営し、エネルギー溢れる場を、まさに“みんなでつくって“育んでいます。 Labという場を通じて、より多くの人が挑戦できる社会を実現したい。そして挑戦を本気で応援し合える文化を醸成したいと考えています。Labはこれからもコラボレーションと実験を繰り返し、「あらゆる挑戦を応援する場」であり続けます。